実習では運動失調をきたす患者さんと接する機会があると思います。
どういった障害像があるかを知り、
どういった機能障害が出現するか、
運動失調に対する評価方法、
リハビリを行う上でのアプローチ方法など、
基本的なことをしっかり学んでおきましょう!!
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【注釈】
注1:石川斎、書名:理学療法技術ガイド
注2:柳沢健、書名:理学療法学 ゴールドマスターテキスト5
注3:千住秀明、書名:運動療法Ⅰ、Ⅱ
注4:長崎重信、書名:作業療法学 ゴールドマスターテキスト4
目次
Ⅰ.運動失調の概要
運動失調はその病変から小脳性運動失調、脊髄性運動失調、前庭性運動失調、大脳性運動失調、末梢性運動失調と5種類に大別される。小脳性運動失調には、小脳実質、脳幹および大脳の病変による機能的には回復型を示すものと、多発性硬化症や脊髄小脳性症などの進行性のものにわけられる。
小脳性運動失調をきたす代表的疾患として脳血管障害(小脳、脳幹、視床、大脳性血管障害)、腫瘍(小脳腫瘍)、脱髄(多発性硬化症)変性・遺伝(脊髄小脳変性症)中毒・感染(アルコール中毒、フェニトイン、有機水銀、ウィルス、細菌)などがある。なお脊髄小脳変性症は、病変の中核が小脳脊髄におかれ、協調運動障害、姿勢保持障害を主症状とした原因不明の神経変性疾患の総称です。
Ⅱ.小脳性運動失調の評価
四肢の運動失調
・測定障害(指鼻指試験、指鼻試験、指耳試験、線引き試験、足指手指試験、踵膝試験、コップ把持試験、STEF)
・振戦(測定障害の試験で観察できる)
・反復運動障害
・変換運動障害(回内・回外試験、膝打ち試験、頸打ち試験)
・筋トーヌスの低下(被動性試験、肩揺すり試験)
・バランス(ロンベルク徴候、継ぎ足歩行検査、片脚立位、ファンクショナルリーチテスト、Time up&Go Test、起き上がりや立位後屈位での安定性)、SARA日本語版(厚生労働省特定疾患対策研究事業)
・その他(はねかえり現象)
体幹失調
・坐位、立位での姿勢保持、歩行時の不安定性の観察
その他
・眼振(前方をみさせておいて、次に側方また上方の一点を見つめさせる)、構音障害(断綴性言語や爆発性言語の有無、発音の不明瞭、緩慢など)
全体的な評価
・易疲労性、疼痛、MMT、ROM検査、腱反射、病的反射、筋緊張、感覚検査、眼球運動検査、高次神経機能検査、起居動作、基本動作、ADL検査を必要時行っていく。協調検査テストを中心に各検査、測定項目の目的を理解し、協調運動障害を色々な側面から捉えていく。
Ⅲ.小脳性運動失調の問題点や目標設定の例
心身機能・構造
・四肢の協調運動障害、平衡機能障害、企図振戦、四肢近位部の筋緊張低下、構音障害、易疲労性
活動
・立ち上がり動作や立位保持能力の低下、入浴動作能力の低下、歩行能力低下
参加
・外出制限
長期目標、短期目標
・長期目標:家内生活の自立、屋外歩行の自立
・短期目標:立ち上がり、立位保持の獲得、歩行の安定性、持久性の向上
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Ⅳ.小脳性運動失調に対する治療プログラム
フレンケル体操
脊髄性の運動失調に対して視覚で代償して運動制御を疎通する目的で考案された運動療法である考案されたものであり、多発性硬化症による運動失調に対しても用いられてきた。小脳性運動失調に対しても用いられてきた。(注1より)体操の内容としては背臥位での体操、坐位での体操、立位での体操と大きく3つに分かれる。最初は臥位、坐位で自分の上下肢を定位目標に合わせて運動させる練習を行い、立位、歩行での運動練習を行い、立位、歩行での運動練習へと進める。重り負荷と組み合わせると効果的である(注1より)しかし練習した運動以外に転移しにくいとも言われている。
体操を進める順序
①背臥位、坐位、立位、歩行時の順を追って行う
②優しい動作から始める
③開眼で成熟したら閉眼で行う
④原則として右からまたは障害の軽い側から行う
⑤1つの運動を3~4回行う(注3より)
※フレンケル体操は視覚の利用、注意の集中、運動の正確性、反復練習が基本とされ、10回を基本としている。
重り負荷
上肢では手関節に200~400g程度、下肢では足関節に300~600g程度の重りとする粗大運動時に腰部分に1㎏程度の重りを装着する場合もある。歩行練習において靴に鉛板などの重りを負荷する方法もある。(注2より)
弾性緊縛帯
体幹や四肢近位部の筋や関節に装着する。弾性包帯やサポーターを利用する場合が多い。これは固有受容器への刺激効果に加えて、関節部分に装着した場合には関節の固定効果も期待できる。あまり圧迫しないように注意が必要である。(注2より)
固有受容性神経筋促通法(PNF)
PNFのテクニックとしてリズミックスタビリテ―ション、スローリバーサル、ジョイントプラキシメーションが用いられる。リズミックスタビリテ―ションは拮抗筋間で抵抗を加えた等尺性収縮を交互に行わせるテクニックである。(注1より図1、注2より図2)スローリバーサルは運動方向に抵抗を加えた等張性運動をゆっくり行うテクニックである。
図1:リズミックスタビリゼーション
※一定の肢位を保持させておき、矢印のように外乱を交互に律動的に与える。
図2:PNFテクニックの利用(リズミックスタビリゼーション)
※矢印は外乱による刺激である。
ジョイントプラキシメーションは立位保持に安定性に効果があると言われている。立位で患者の両側の腸骨稜を術者の両手で上から保持し、ゆっくりとリズミカルに下方に圧を加える手技である。立位保持練習や歩行練習の前に行うと効果があると言われている。(注1より図3)
図3:立位保持練習時の下肢長軸方向への圧迫
立位保持練習
立位では両側を広げた開脚姿勢を呈するが、両足を閉じて揃えた立位姿勢が可能となるよう立位保持を段階的に行う。図4に示すように開眼で両足を20㎝広げた立位保持からはじめて、閉眼・閉脚立位保持へと進める。ジョイントプラキシメーション手技を行い、各課題が保持となれば次の課題へ移行する。最後の閉眼・閉脚立位が30秒間可能となれば歩行が可能となる。(注1より図4)
図4:段階的な静的立位バランス練習
バランス練習
バランス能力を改善させるためには、指示基底面を狭くしたり、重心位置を高くしたりと不安定な状況下にて姿勢保持や反復運動を実施する。
全身持久力向上
小脳障害の一つとして筋力低下がある。また二次的な廃用症候群により筋力低下が考えられる。トレッドミルやエルゴメーターを使用し、日常生活活動の活性化や運動量を確保し、体力の維持・向上を目指す。転倒に注意する。
ADL訓練
小脳性失調の場合は運動学習に障害があるため、基本動作として練習した動作を応用することはが困難である。また周囲の環境に適応させることも難しい。訓練中にできていたADLが病棟や家庭ではできないという事もありえる。その為ADL訓練では実際のADL場面における環境を想定した練習が重要となり、本人および家族に対する環境設定についての指導も重要となる。
脊髄性の運動失調は小脳性運動失調が運動統合の障害であるのと異なり、運動に関係する求心性入力である位置覚、運動覚などの固有感覚の障害であり、小脳における運動プログラムは障害されていないので、視覚により代償される。したがってロンベルク徴候は陽性である。
協調性訓練治療例
①負荷の中でのコントロール
・体幹、肩関節、股関節周囲の底筋緊張に伴うstabilityの低下とそれに伴う上下肢の協調性低下に対する訓練。
立位にて、セラピィボールを両上肢で押しつぶし戻す。次に押しつぶした状態でセラピィボールを前後、左右、回転を狭い範囲で行い、コントロールできたらその幅を広げ、押しつぶす強さを増減させコントロールさせる。押しつぶす負荷を加えることにより上肢近位部の筋緊張が高まり、収縮の準備性ができる。このなかでボールをコントロールさせ、筋収縮のタイミング、速さ、強さなどの変化をもたらせて学習させ、柔軟なStability・Mobilityの向上を図る。(注4より)
②固有感覚、識別性触覚に伴う協調性訓練
・関節の角度、筋の伸長などの固有感覚受容器、圧の変化及び摩擦を識別性触覚の受容器で感じ、視覚でのフィードバックを加え、協調的な運動を促す。
・新聞紙を丸める際、手内の運動性を高める。リストを背屈位で固定することにより手のグリップ力は向上する。新聞紙が手の中で丸まる抵抗感の変化を手掛かりに握りの強さを加減しながら形を丸く整える。新聞紙を広げる際は新聞紙の抵抗感が識別性触覚を高め、摩擦という抵抗を合わせ協調した動きを見せる。両手を同時に広げさせれば左右の広げる力、速さ、タイミングを合わせなければ上手く広げることはできない。(注4より)
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Ⅴ.脊髄小脳変性症の評価
1、重症度の評価は脊髄小脳変性症の重症度分類(厚生労働省特定疾患運動失調症調査研究班)やSCDの重症度分類(望月のよる)を活用する。
2、測定障害、共同運動障害、変換運動障害等、振戦、バランス、筋力、感覚、可動域、姿勢動作、歩行、認知機能、ADL等の評価は上記の運動失調の評価と基本的に同じである。
Ⅵ.脊髄小脳変性症の障害例
機能障害
・協調運動障害:筋緊張異常、体幹や四肢の振戦、姿勢保持、変換障害、歩行障害、wide base、反復運動障害
・自立運動神経:起立性低血圧、排尿障害、体温調節障害
・構音障害
・嚥下障害
・二次的合併症:筋力低下、ROM制限、肥満、転倒による打撲、骨折
脊髄小脳変性症の解釈
疾患のレベル、機能障害レベル、活動制限、参加制約レベルは各疾患(遺伝形式の有無、自律神経障害、感覚障害の有無、進行の程度))によって異なるので疾患名を確認しておく。活動制限レベルでは、日常生活内容、起居移動能力、コミュニケーション能力を把握する。参加制約のレベルでは、地域社会との交流、職業・経済的問題について把握する。
Ⅶ.脊髄小脳変性症の治療プログラム
1、SCDは病型によって症状や進行速度、予後は異なるが、慢性進行性であり、ADLが徐々に障害される疾患である。したがってSCDに対する訓練は運動失調の軽減を図る対症療法が中心となる。病気の進行に応じたADL指導・自助具・生活環境調節指導は必要である。(注1)重り負荷・フレンケル体操・PNF(リズミックスタビリテ―ション)・筋力強化・全身持久力向上・バランス練習・姿勢保持および動作訓練・ADL練習・指導(具体的な方法は上記の内容を参考)
2、進行に合わせた訓練
ステージⅠ
社会生活の維持することを中心に考え、歩行能力やADL能力を維持・改善を目標にする。
ステージⅡ
家庭内生活の維持することを中心に考え、歩行、起居動作能力の維持、運動量の確保、
生活環境の整備を目標にする。
ステージⅢ
家庭内生活を維持するために起居動作能力の維持、運動量の確保に加えて介助量の軽減、
二次的合併症の予防が中心的な目標となる。
ステージⅣ
坐位保持能力の維持、介助量の軽減、二次的合併症の予防、家族指導が目的となる。
Ⅷ.参考文献(注釈)
・注1:石川斎、書名:理学療法技術ガイド
・注2:柳沢健、書名:理学療法学 ゴールドマスターテキスト5
・注3:千住秀明、書名:運動療法Ⅰ、Ⅱ
・注4:長崎重信、書名:作業療法学 ゴールドマスターテキスト4
・服部一郎、書名:リハビリテーション技術全書
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